みなさん、こんにちは。
師走は文字通り慌ただしく、忘年会やクリスマスのイベントの時期になり人々の活況は日々増している。だがコメ業界はそれ以上に今過熱している。
令和6年は実に20年ぶりに国産米の市場価格が1俵(60㎏)2万円を超え、さらに年末12月には3万円台(卸売スポット市場価格)に到達している。
量販店の店頭小売価格も精米5㎏が昨年は2000円以下も多数見受けられたものの現在は軒並み3000円以上、1.5~2倍以上に値上りしている。
令和7年の端境期(6月~8月)にお米の在庫が足りなくなるのは目に見えている状態で、農水省の民間在庫予測(令和7年6月期158万t予想)の発表も如実にそれを表している。全国の作況指数101で、平年並みのはずであるが、令和5年産の不足感が、そのまま令和6年産に引き継がれている格好だ。
誰もここまで米不足を経験するとは思わなかっただろう。消費者の方もまさかスーパーの棚からお米が消える日が来るとはだれも予想しなかっただろう。だが、現実にはそれが起きた。
先日12月20日(金)に農林水産省が主催する業務用米セミナーが開催された。各産地から農家や農業法人が参加し、バイヤー、卸、メーカー、小売り、外食企業とそれぞれ商談する機会だ。
過去に何度か開催されているが、年度によっては(つまりお米が余っている年)閑古鳥が鳴くほどまではいかないが、静かな商談会も多かった。今回は過去一のバイヤー側の参加数であり、商談も活発に行われていた。現在のコメ市場を反映しているのだろう、農家にとってはまさに入れ食い状態である。この商談会に参加しなかった農家もすでに売り先は十分にあるのだろう。ドブ板営業ではないが、各卸、商社、集荷業者も地方を巡業し、出荷契約を要請している。かく言う弊社にもさまざまなオファーは届いている。
お米を作っている農家からすれば、一番大切なのはこの現象が一過性のものなのか、それとも業界全体の構造転換になるような大きな変化なのか見極めることだ。ある卸の方は、これは一過性だから、来年増産になればそれ以降はコメ相場は落ち着くだろうと言っていた。金融機関のある支店長も値段がいいのは今年だけだから無理に設備投資しないでくださいと冗談めかしに言っていたが、はたしてそうだろうか?
往々にして人々は急激な変化にはすぐに反応するが、ゆっくりとした変化にはうっすらと気づきながらもそれを自覚することなく、ゆでガエルのようにことが大きくなってから反応する。
コメの産地である地方では、主に都市圏に住む卸商社、バイヤー企業は気づけないほど、小さなしかし確実な変化が起こっている。コメ作りをする農地の用水路や農道といったインフラの劣化、少子高齢化による人口減少と働き手農家の減少、中山間地域の衰退と耕作放棄地化、気候変動による水源の減少と異常気象。
農水省をはじめ地方自治体、行政、JAなども支援策や補助金制度を拡充しているが、現場での変化には当然追いつていないと思われる。
確実に農業生産者の生産コストは上昇している。直接コストである農薬や肥料はその原料の多くが輸出材であり円安の影響を受け、毎年値上がりしている。ガソリンや軽油の値上がりは言うまでもなく、トラクターをはじめとした機械はも青天井に値上がりしている。間接コストである求人コスト、拡大する農地に合わせた管理経営コストもあがっている。まさに今までの常識、方法が通じない時代になってきている。
新しい時代には新しい農業、コメ作りが必要であろう。その芽は各地ですでに芽生え始めている。ITツールを駆使し、大規模面積を少人数で管理する農業法人、2次3次産業へ進出し垂直統合的に事業を拡大する農業法人、農協も含む流通や小売りに奪われていた価格決定権を取り返すかのように直接営業展開し販路を築く法人、多様多種な法人が新時代の農業法人にふさわしい先駆けとして走り出している。まさに「パワー農家」と称するにふさわしい先進農家が出現している。
総じて私が個人的に感じるのは、卸流通や川下企業はキャッチアップしていない(追いついていない)と感じるのは、すでに単純な売買では商売は成り立たなくなっているということだ。単なる物流企業になりさがらないために中間流通業者は、生産者以上にその事業自体の付加価値をいかに高めるかが問われているのだろう。
悲しいことではあるが、実態として国内のコメ需要は減少しているし、市場規模も縮小している。中間流通業者の淘汰もすでにだいぶ進んでいる。川上である農業界は統合が進みひたすら集約拡大が進み、ますますパワーバランスは傾いている。
商談会の際に「身もふたもないことですが、何とかお米を出していけないでしょうか?」という問いかけをしていった地方の米穀会社の社長は、この現実をどう受け止めているのだろうか?
弊社は農業生産法人と集荷卸売業者を一体的に運営しているが、お米のサプライチェーン全体を俯瞰してどこに商機があるのか?と問われれば、まさに「生産」の一言に集約されるだろう。
資本集約と生産性効率化を至上命題とする資本主義的な大規模農業法人はモノカルチャー経済として敬遠され、環境破壊や利益市場主義者として海外では批判を受けることも少なくない。2021年に新農業法の撤回にみるインドで起こったような地域小規模農業者の多様性を守る保護主義的な動きも見逃せない。
しかし主義主張がどうであれ日本の農業界で起こっている地方の衰退と農業経営体の集約大規模化は紛れもない現実として着実に進んでいる。
もうすでに起こっている未来の小さな芽はやがて無視できない大きな変化として業界全体を飛び越えて日本全体に影響を与えていくだろう。
その時にどうするのか?いら、それを見据えてどう今から行動していくのか?まさに農業経営者、流通業者、川下企業、各社の戦略眼が問われている。