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近未来におけるマクロトレンドの農業への影響の考察③

「マッキンゼーが予測する未来 -近未来のビジネスは、4つの力に支配されている」リチャード・ドッブス  (著) より4つの視点で農業に当てはめて考察してみましょう。

③高齢化

超高齢化社会の到来を迎える日本の農業界において高齢化の意味するところは3つある。1つ目は消費行動の減少及び変化である。すでに人口ピークを過ぎ、減少しはじめている日本国内は食品業界、飲食業界ともに市場は減少している。ありあまる生産供給能力により価格は下落し、農産物のブランド化が実施できない企業、団体はコモディティ化により低利益に苦しみ政策補助金に頼らなければ再生産を維持できないレベルにきている。

 

生産市場は二極化が進む。各種の規制緩和と規模の経済性追求により可能となる大規模農園の運営が実施できコストリーダーシップが取れる企業、またはブランディングに成功し、少量多品種の有機野菜などの付加価値が高い差別化戦略がとれる企業に分かれる。市場縮小の中で、農業経営体の淘汰が始まり兼業小規模農家によって支えられてきた戦後日本の農業体制は大きな転換点を迎えつつある。市場自由化の中で、既得権に守られてきた農協は自ら変革するかその役割を縮小解体するかに迫られつつある。新興農業企業か農協が勝ち残るかはそれぞれの戦略による。

コストリーダーシップ VS ブランディング/差別化戦略

 

また高齢化社会の到来により消費者の嗜好、食に対する価値観も大きく変化する。量より質の付加価値が重要な意味を持ちはじめ、大量生産大量消費にかわり消費嗜好は細分化、複雑化する。需要が絶えず変化し、それにこたえるためには需要に即応する商品開発、マーケティングが必要となる。またそれは農業界における販売、広告宣伝コストの増加を意味する。

 

2つ目は農業現場での労働力需給の逼迫である。すでに農業従事者の平均年齢は65歳を超え、次世代を担う若者や後継者のいる農家、農業法人はそれほど多くはない。生産市場における寡占化、水平統合(農家の大規模化、農地の拡大)の進展により、大規模な農業法人では労働環境が安定し若い労働力も確保されつつある。しかし農業が経営基盤とする地方において人口減少、若者の都市への流出が著しく増加しており、職業としての競争優位性はだいぶ前から失われており、有能な人材の確保、若い労働力を引き付けることは難しい。少子化と高齢化は農業市場における労働力の中長期的な逼迫を示唆している。

 

この解決策として考えられるのは、農地の基盤拡大整備を前提とした海外市場で実践されているトラクター等農業機械の自動運転化、AI等の活用による適切な施肥・農薬管理、作業管理・労務管理等の生産支援システムの導入による生産効率の向上である。

 

3つ目は農業労働力としての高齢者の活用及びその支援である。すでに農業従事者の平均年齢が65歳を超えているがこのトレンドはしばらく続くと考えられる。そうであるならば高齢者が農業に従事しやすいための労働環境の整備が必要であり、高齢者の労働力の活用を前提とした農業経営が求められる。技術的な面から言えば農作業をする際の作業負担を軽減するための機械化、自動化は進んでいるが、機械にとって代わることができない作業の効率性、生産性を高めるための人体力学的な作業アシストロボットまたは支援補助ベルト等の労働現場での普及は有効である。また農業特有の繁忙期、閑散期、早朝作業などの必要労働力の偏重をフルタイム労働ではなく、パートタイムや期間限定といった高齢者の生活リズムや事情に合わせた柔軟な賃金及び労務政策が必要となる。

参考図書

 

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