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近未来におけるマクロトレンドの農業への影響の考察④

「マッキンゼーが予測する未来 -近未来のビジネスは、4つの力に支配されている」リチャード・ドッブス  (著) より4つの視点で農業に当てはめて考察してみましょう。

 

     ④ フロー 相互結合の高まり

     

    2007年、アメリカの証券会社破たんを機に世界に伝搬した金融危機は世界中にその波動が伝わっていった。それは先進国のみではなく、新興国にも影響を及ぼした。ヒト、モノ、カネがグローバルに行きかう現代はその相互結合の度合いをさらに深めている。世界の端で起こった出来事がインターネットを通じて瞬時に、世界のもう片方の端に伝わり影響を及びしていく。

     

    2000年代前半から続いた資源価格の高騰は日本の農業にどのような影響を及ぼしたのでろうか? 石油価格の上昇は各農業機械を運転するトラクター、設備、機器の燃油を押し上げ、トウモロコシ価格の上昇は畜産の餌の価格を押し上げた。また突発的な自然災害は、グローバルなサプライチェーンへの依存度をますます高めている各資材メーカーの収益を圧迫し、それが需要者である農業界に影響を及ぼしている。

     

    しかし米価は、世界にまれにみる保護政策により外部(外国)要因をあまり受けず、国内において価格が乱高下するものの世界的な食糧価格の上昇の影響を受けてはいない。

     

    突発的な環境要因、資源価格のボラティリティの高さに対応する術はないのだろうか? 今後農家や農業生産団体が大規模化していくなかで、コスト削減策をはるかに超えて農作物、資源価格の乱高下は、農業経営に致命的な影響を与えてくる。生産調整政策が歴史的な転換を迎え、いよいよ自由市場化の流れになりつつある中で、どのように農業経営体はその経営を安定させることができるのか?

     

    1つ目は、先物市場を活用したリスクヘッジである。日本国内では先物市場を活用した価格ヘッジを活用した農業経営体はほとんどいないであろう。日本国内の先物市場は脆弱で流動性が極端に低い。制度改革もままらないまま、社会インフラとしての認知も広がらず、機能していない。先物市場を活用したリスクヘッジには緻密な財務戦略と流動性が高い市場が不可欠である。近い将来、秋の収穫前にお米の価格を予想し先物市場と現物市場に対してリスクヘッジを行う高度な農業経営体が出現し、安定的な経営の基礎を築くであろう。

     

    2つ目は経営戦略の転換である。すでに食品産業全体のサプライチェーンの中に出現しつつあるトレンドは垂直統合戦略である。乱高下が激しく、価格管理が難しいサプライチェーンのポイントがある場合、経営戦略的には上流、下流問わず垂直統合することが経営安定策の上策である。すでにコンビニエンスストア業界はプレミアム商品と銘打って自社ブランド商品の強化を推進し、一部は自社ファームとしてサプライチェーンの上流に参入している。中間中流業者は飲食チェーンを買収、または一部出資し、垂直統合度を高めている。農業界はどうであろうか?6次産業化という言葉が踊っているが本質は垂直統合戦略である。農家がレストランを始め、直売所をもつことを政府が支援している。経営の多角化による安定した経営を、と謳っているがこれは経営学的な多角化戦略ではない。同じ事業領域(食品サプライチェーン)の展開であれば垂直統合度を増しているに過ぎない。事業ポートフォリオ上のリスク分散効果はあまり強くはなく、垂直統合による価格決定権の確保が本質的な目的であるように思われる。

     

    いずれにせよ農業を含めた食品産業界は、アパレルメーカーなみに小規模ながら垂直統合度を高めている。生産、加工、販売までの一貫したサプライチェーンを管理する経営体が増えるのであれば次の競争戦略の基軸は、垂直統合度ではなく、サプライチェーンを一つのエコロジー(生態系)とみなし、サプライチェーン全体のブランディングで勝負できるかどうかである。ユニクロやIKEA、ニトリなど他産業で行われているSPA製造小売りモデルが次の業界のトレンドとなるのであろうか。

     

    価格決定権がサプライチェーン上のどこに存在するのか? それを確保するためにはどうすればよいのか? 一番簡単な方法は自分で作って、自分で加工し、販売することである。しかし、それが簡単にはいかず、さらにある条件下では各サプライチェーンを水平分散化した方が経済メリットがあがる場合もある。個々の事業経営の環境要因を特定し、それを生かす経営センスが求められている。

    参考図書

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